1 はじめに

 「離婚をしたときに養育費の取り決めをしていなかった」

 「養育費の取り決めをしたのに、すぐに払ってくれなくなった。」

 そのようなお悩みを持っている方はとてもたくさんおられます。

 当事務所では、養育費の取り決めを行うほか、相手の住所や財産状況を調べるなどして、未払いとなっている養育費の回収のお手伝いをすることができます。

 債務名義をお持ちの場合は、弁護士は裁判所を介した強制執行手続きを行うことができます。

債務名義って?

 強制執行するために必要なものです。判決や和解調書、調停調書、一部の公正証書などがこれにあたります。口約束や覚書きなどは含まれません

2 養育費回収のおおまかな流れ

債務名義の獲得
一部の公正証書・調停調書・判決などがあります
財産調査
相手がどんな財産を持っているのかを調べます
強制執行の申立て
預貯金や給与を差し押さえます
養育費の回収
預貯金や給与を差し押さえることができれば養育費の回収が可能です。

3 すでに債務名義をお持ちの場合

 すでに債務名義をお持ちの場合は、強制執行の準備を行うことを検討しましょう。

 ほとんどの場合、「相手がそのうち払ってくれる」と期待して待っていても、相手が払ってくれることはありません。

 債務名義をお持ちの場合は、財産調査を中心に検討します。

 その流れは以下のとおりです。

別居前などに財産調査
離婚を考え始めた頃から財産の調査をしておきましょう。
情報開示制度
相手を裁判所に呼んで財産状況を開示してもらいます
第三者からの情報取得手続
金融機関などから預貯金の情報、市町村や日本年金機構などから勤務先の情報を取得します
強制執行の申立て
得られた情報を元にして強制執行を申立てます
養育費の回収

(1)情報収集

 相手の持っている金融機関の口座がどこにあるか,相手の勤務先がどこかを調べます。

 最も簡単な方法は、別居をする前に家の中を調査して、相手の持っている金融機関の口座や勤務先の情報を入手する方法です。

 相手が財産を隠している場合は、すでに別居をしてしまっている場合には、相手の情報を知ることは困難になります。
 この点、近年改正された民事執行法の制度を用いることで,調査することができる場合があります。

 具体的には,現在把握している財産に強制執行をしても完全な弁済を得られない場合に,相手を裁判所に呼んで,相手自身の財産状況を説明するように求めることができる財産開示手続を利用します(民事執行法197条1項2号)。
 これを拒むことは犯罪となり,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される場合があります(民事執行法213条1項5号)。

 また,第三者から相手の財産状況に関する情報を開示してもらう,第三者からの情報取得手続という制度を利用することができます(不動産関係:民事執行法205条1項,給与関係:同法206条1項,預貯金関係:同法207条1項)。

 第三者からの情報取得手続きによって,給与関係の情報と,不動産関係の情報を第三者から取得するためには,先に財産開示手続を行い,その財産開示手続きから3年以内に第三者からの情報取得手続きを行う必要があります(民事執行法205条2項,同方206条2項)。

 これらの方法を執るには時間も手間もかかってしまいますので,あらかじめ,できる限りどの金融機関のどこの支店に口座を持っているのかを把握しておいていただけるとスムーズです。

(2)強制執行

 現時点までで滞納している養育費については,相手の持っている金融機関の口座を差押さえると一度に回収ができます。

 また,将来発生する養育費に関しては,給与を差押さえることで毎月支払いを受けることができるようになります。これは養育費など一部の債権にのみ認められた非常に強力な方法です。

 相手方の勤務先が不明である場合については,財産開示手続き第三者からの情報取得手続きによって調査する方法があります。

 ただし,相手方の勤務形態や財産状況によっては,強制執行の手続きによっても養育費の回収ができない可能性があります。

4 まだ債務名義を取得してない場合

(1)債務名義の獲得

 まずは養育費の取り決めを行います。

 相手からの支払いを確保するためには,口約束や覚え書きのような書面で約束するだけでは不十分であり,債務名義の形にする必要があります。

 そこで,調停を申立てたり,公正証書を作成することになります。

 相手からの協力が得られそうであれば公正証書の作成を目指して示談交渉を行いますが,相手からの反発がある(予想される)ケースでは,調停を申立てることになります。

 もっとも,相手が現時点で養育費の支払いをしていない以上は,相手が公正証書の作成に応じる可能性は決して高くはありませんので,調停等を行う覚悟をしておくべきであると思います。

(2)養育費の金額の算定方法

 養育費の金額については,裁判所が作成した算定表(裁判所のHP)を用いて算定します。

 この表は,監護親と非監護親の収入を元にして,養育費を算定するものです。

 実務では,調停や審判においてはこの表を用いて算定することになっているので,示談交渉においてもこの表を用います。

 なお,この算定表はあくまで目安ですので,具体的な状況に照らして金額を調整することもあります。

(3)裁判所での手続き

 裁判所に対して養育費の請求を求める調停の申立てをします。

 この調停において話がまとまらない場合は,審判によって裁判所が相当と判断する金額が示されることもあります。

 審判から2週間以内に当事者が不服申立てを行わなければ,この審判が確定します。

(4)強制執行手続き

 債務名義を取得した後には相手が養育費の支払いを行うか数ヶ月間様子を見ます。

 相手からの支払いがない場合には強制執行を行うことを検討します。

5 よくある質問

養育費の取り決めをせずに離婚をした後からでも養育費を請求することはできますか?

可能です。

 離婚の際に養育費に関する取り決めをしていなかったとしても、後から養育費の請求をすることは可能です。

 このとき、相手が途中で支払いを辞めてしまうかもしれませんので、きちんと債務名義(強制執行をすることができる書面のことです)になるように、公正証書を作成したり、調停などで取り決めをすることを強くおすすめします。

 残念ながら,養育費の支払いがない状態から相手が心変わりをして急に養育費を支払うようになることは極めて稀だというのが現状です。
 養育費の支払いを受けたいときは,できる限り早期に弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。

相手が養育費を支払ってほしいなら子どもに合わせてほしいと言ってきました。どのようにすればよいでしょうか?

子どもに合わせるという条件は断っても構いません。養育費の支払いと子の面会交流は別だからです。

 しばしば、養育費を支払うことの条件に、子との面会交流を要求されることがあります。

 しかし,養育費の支払いと面会交流はそれぞれ別のものですから,養育費の支払いの対価として、子との面会交流を求めるのは誤りです。

 そのため、相手の要求は断ってしまっても構わないことになります。

 子との面会交流については、別途話合いや調停などで決定するべき事項であり、養育費の支払いと関連づけるものではありません。

相手が支払った養育費の使い方を全部説明してほしいと言ってきました。相手の要求に応じなければならないでしょうか?

応じる必要はありません。

 養育費の使い道を細かく知ろうとする方はしばしば見受けられます。

 相手の性格をよく考えて,きちんと使い方を説明すれば納得する方なのであれば,相手の求めに応じることも一つの方法ではあると思います。

 しかし,一度開示に応じると,その後もずっと開示を求めてくることが予想され,過度の負担を強いられる可能性があります。

 また,どんな使い方であっても非難するタイプの方も一定数いらっしゃるので,相手がどういうタイプなのかを見極めて,対応を考えるべきです。

 相手が養育費の使い方を教えないと支払わないという態度を貫くようであれば,強制執行等の法的手段を執る必要があると思われます。